シカ捕獲マニュアル
福井県猟友会が福井県農林水産部中山間農業・畜産課と監修・作成した有害鳥獣捕獲のためのマニュアルです。
「くくりわな」を用いたシカの捕獲方法
シカ被害の現状
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福井県内のシカによる農作物被害は、平成29年度は490万円(10ha)となっています。
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また、シカとの接触による交通事故など、人身被害も発生しています。
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山林では、シカにより草木が食べられ、土壌流出などの被害も発生しています。
シカにより食害された森林
くくりわなの種類と構造
くくりわなの特徴
くくりわなは、小型・軽量で持ち運びが容易であるため、シカが出没している場所に設置することができます。一方で、くくりわなでの捕獲は、シカの行動を予測し、シカが足を置く位置を見極めてわなを設置するなど、一定の技術が必要となります。
[長所]
- 小型、軽量で、持ち運びが容易
- 一度に複数台を設置できる(30台まで)
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基本的には、誘引餌を使用しないため、餌の費用がかからない
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価格は、1台あたり5,000~10,000円程度と、他の猟具と比べて安い
[短所]
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シカの行動を予測して設置するため、捕獲には一定の技術が必要
- 錯誤捕獲が発生した場合、放獣が難しい
- 1台で1頭しか捕獲できない
くくりわなの輪の直径について
輪の直径が 12cm
を超えるくくりわなは、狩猟捕獲への使用が禁止されています。
※輪の直径は、
「内径の最大長直線に角交わる長さ」
を計測します。
くくりわなの使用規則
くくりわなには、法令で定められた使用規則があります。わな猟免許の取得とともに、くくりわなにおける禁止事項にも十分注意しましょう。
規則に違反した場合は、最大で1年以下の懲役または100万円以下の罰金などの罰則が適用されることがあります。
[禁止猟法]
以下の場合は、シカおよびイノシシを対象とした狩猟※には使用できません。
- 輪の直径が12cm を超える
- ワイヤーの直径が4mm 未満
- 締め付け防止金具が付いていない
- よりもどしが付いていない
- 30 個を超えるくくりわなを1 人が同時に使用する
※福井県では、有害鳥獣捕獲においても以上の禁止猟法は使用させないこと
と定めています。
締め付け防止金具
よりもどし
図 使用できるくくりわなのイメージ
出典:「野生鳥獣被害防止マニュアル-イノシシ、シカ、サル、カラス(捕獲編)-」
(農林水産省、平成21 年)
くくりわなの種類
くくりわなは、「輪の締まり方」と「ばねの形状」によりいくつかのタイプに分けられます。
くくりわなの特徴や設置方法は、種類により異なります。くくりわなの種類にあった設置をしましょう。
表 くくりわなの種類
①跳ね上げ式(圧縮ばね)
【作動方法】
- 圧縮ばねの伸びる力で、輪を締める。
- 獣が板を踏み、輪が板から跳ね上がることで作動する。
【特徴】
②横引き式(ねじりばね)
【作動方法】
- ねじりばねの伸びる力で、輪を締める。
- 獣が板を踏み、輪が板から外れることで作動する。
【特徴】
③縦引き式(圧縮ばね)
【作動方法】
- 圧縮ばねの伸びる力で、輪を締める。
-
獣が板を踏み、トリガーが外れて、
ばねが飛び上がることで作動する。
【特徴】
注:くくりわなの輪の直径は12㎝を超えてはいけません。
輪=ワイヤーの直径が12㎝を超えないよう設置しなければなりません。
※これを超えると法令違反となります。
表 くくりわなの種類
くくりわの形状
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内 容 |
写 真 |
①跳ね上げ式 (圧縮ばね) |
【作動方法】
- 圧縮ばねの伸びる力で、輪を締める。
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獣が板を踏み、輪が板から跳ね上がることで作動する。
【特徴】
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②横引き式 (ねじりばね) |
【作動方法】
- ねじりばねの伸びる力で、輪を締める。
- 獣が板を踏み、輪が板から外れることで作動する。
【特徴】
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③縦引き式 (圧縮ばね) |
【作動方法】
- 圧縮ばねの伸びる力で、輪を締める。
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獣が板を踏み、トリガーが外れて、
ばねが飛び上がることで作動する。
【特徴】
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注:くくりわなの輪の直径は12㎝を超えてはいけません。
輪=ワイヤーの直径が12㎝を超えないよう設置しなければなりません。
※これを超えると法令違反となります。
捕獲手順
捕獲場所の選定
くくりわなは、獣が頻繁に出没している場所に設置します。シカの足跡やフンなどの痕跡(フィールドサイン)を探し、頻繁に利用している場所を見つけます。
[くくりわなの設置に適した場所]
- シカが頻繁に利用している獣道
- 新鮮なシカの痕跡(フィールドサイン)がある
- 獣道が狭いなど、くくりわなを設置する位置が決めやすい場所
- 平坦な場所
- くくりわなを固定する木などがある場所
- くくりわなを埋める穴が掘りやすい場所
- 人があまり立ち入らない場所(事故防止)
[くくりわなの設置に適さない場所]
- イノシシの掘り返しが多い場所
- 傾斜が急な場所
- 人が頻繁に利用する場所
くくりわなの設置に用いる道具
- ①.剪定ばさみ
- ②.片手バチヅル
- ③.根ほり
- ④.作業手袋(頑丈なもの)など
※注意点…くくりわなの種類によって、主に使用する道具は異なります。
(1)シカの痕跡が多い場所を見つける
シカが通る可能性の高い場所を見極め、シカが足を置く場所にくくりわなを設置します。そのため、新しいシカの足跡が多い場所や、木と木の間など、シカの通る場所が限定される場所を探します。夜間にライトでシカの多い場所を調べるとさらに効果的です。
[注意点]
くくりわな設置後に、シカに警戒されないよう、獣道は踏み荒らさない
シカの足跡
イノシシとは異なり、副蹄がつかない。
カモシカも似た足跡だが、付近にある
糞の量を参考にして見分けることがで きる。 歩幅は、成獣で 80
100cm
(2)くくりわなの設置に適した場所を選ぶ
シカの通り道において、シカが足を置く場所を探し、くくりわなを設置します。シカは倒木や石を踏むのを嫌がるため、シカの通り道に倒木や石を置き、足の置き場を誘導すると効果的です。
また、作業時の安全を確保するために、傾斜が緩い場所を選定しましょう。
獣道が狭い
シカの糞
大きさ 1 2cm の俵型の糞。 1 か所に
数十粒が落とされる。バラけずに塊で 排泄されることもある。
カモシカの糞は、 40cm 四方の範囲に 100
粒以上がまとまって落ちている。
設置方法と注意点
(1)くくりわなを繋ぎ止める
- ワイヤーを木の根や幹に固定する(根付け)
- 木の根や幹は、捕獲したシカが暴れても折れないものを選ぶ
くくりわなの幹への固定の例
くくりわなの木の根への固定の例
(2)穴を掘る
- くくりわなが隠れる深さの穴を掘る
- 掘り返した土は、離れた場所に捨てる
- くくりわなは、シカが足をつく位置に設置する
[ポイント]
- 設置場所の周辺は、掘り出した土などで不用意に荒らさない
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掘り出した表土は別にとっておき、くくりわなのカモフラージュに使用する
くくりわなの箱が隠れる深さまで穴を掘る
地面とくくりわなの踏板とが同じ高さになるように穴の深さを調整する
(3)くくりわなを置く
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穴の深さは、踏み板の高さが地面の高さと同じになるようにする
- 獣道と並行になるよう設置する
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シカがくくりわなを踏んだときに力がかかるよう、確実に固定する
箱を穴にしっかり固定する
箱の上に踏み板を設置し、高さを地面と同じに調整する
(4)くくりわなを隠す
- くくりわなの上に、乾いた少量の土をかける
- 落ち葉などで、穴を掘る前と同じ状態にする
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倒木を超えた先に設置する場合は、1歩目ではなく、2歩目がくくりわなにかかるよう設置する
[ポイント]
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枝や石は、くくりわなの作動時に巻き込んで正常に作動しなくなるため、くくりわなの上部から取り除く
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シカは、踏んだ際に音の出る枯れ葉や枝などを避けるため、枝などでシカの踏む位置をくくりわな上に誘導する
土や落ち葉によりくくりわなを隠す
枝などでシカの踏む位置を誘導する
(5)くくりわなの設置動画。
見回り
(1)くくりわなを見回る
- 1日1回は、見回りをする
- くくりわなの設置場所へ近づくときは、斜面の上側から近づく
- くくりわな周辺のシカの痕跡を調べる
- 誤作動の場合は、その原因を調べる
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くくりわなやワイヤーが露出している場合は、土や落ち葉などで隠す
【チェック項目】
- くくりわなは、露出していないか
- ワイヤーは、木に固定されているか
- くくりわなは、シカに回避されていないか
獣の痕跡確認
光沢のある新しいシカの糞
(2)くくりわなを移動する
以下の場合には、くくりわなの移動を検討します。
- くくりわなの設置後、2週間以上が経っても捕獲されない
- シカに回避された痕跡がある
- シカを捕獲したため、設置場所周辺がひどく荒れた
看板の設置
くくりわなを設置した場所には、法令
で義務付けられた標識に加えて、来訪
者から目立つ位置に注意を促す看板を
設置し、事故を防止しましょう。
安全管理
安全管理について
くくりわなによる捕獲の際、事故の発生があってはいけません。くくりわなを設置するにあたり、どのような事象が発生するか、具体的にイメージする必要があります。そして、事故の発生に結びつく可能性がある場合は、回避するための方策を講じます。
くくりわな設置前
(1)服装・装備
くくりわなの設置者が作業中にけがをしないような服装・装備を確認します。
(2)くくりわなの設置位置
くくりわなの設置は、獲物がかかった後の安全確保もイメージしておこないます。
[獲物がかかった後の安全確保]
※くくりわなにかかった獲物が斜面途中でぶら下がることがない立地を選ぶ
[止め刺しが可能な立地かを確認する]
- 銃による止め刺しの場合、バックストップを確保できるか
- 銃による止め刺しの場合、岩などで、跳弾する立地ではないか
- 銃による止め刺しの場合、住宅地から200m以上離れているか
(3)注意喚起の看板設置
くくりわなの設置は、獲物がかかった後の安全確保もイメージしておこないます。
くくりわな設置後
(1)見回り
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見回りは午前中に実施する
※獲物は、くくりわなにかかった後、時間が経つほどに暴れます。すると、わなが壊れたり、足が抜けるなどの危険が生じます
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くくりわなに近づく前に、双眼鏡などにより、遠くから観察します
- くくりわなには、斜面上部から近づきま
(2)獲物がかかっていた場合
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くくりわなのワイヤー径を確認します
※不用意にワイヤー径の範囲内に近づくと、獲物の反撃を受けます
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獲物の足がどのようにくくりわなにかかっているかを観察する
※足のつま先だけにかかっている場合は、足が抜けて反撃を受けます
- くくりわなには、斜面上部から近づきます
(3)使用道具
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一度獲物がかかったくくりわなは、ワイヤー等の部材を交換する
※ワイヤーの内部断裂が発生しており、強度が低下しています
止め刺し
捕獲したシカをそのまま放置することは、法律で禁止されています。捕獲後は、止め刺しをし、埋設や焼却などの方法で適切に処理する必要があります。
①捕獲状況を確認する
くくりわなのかかり具合などや獣の興奮状態、くくられている足の状態、
捕獲の状況などにより、安全な止め刺しの方法を検討します。
[止め刺しの例]
- オスジカなど体格が大きく、接近することが危険な場合:銃
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保定用補助具により、獣を保定できる場合:刃物、電気ショッカーなど
②獣が動ける範囲を把握する
くくりわなのワイヤーの長さから、獣が動ける範囲を把握し、安全に接近できる場所を確認します。
保定用補助具のワイヤーをシカの首や足、角にかけ、くくりわなを固定(根付け)した木と反対側の木に保定用補助具のロープを結ぶ。
③止め刺す
保定した獣には、斜面の上側から近づき、できる限り不要な苦痛を与えない方法で止め刺します。
[止め刺し方法]
- 銃:斜面の上側から頭を狙って撃つ
- 刃物:心臓や頸動脈などを狙って刺す
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丸太や鉄棒:眉間や後頭部を叩き、獲物を失神させてから心臓や動脈を刃物で刺す
保定用補助具
刃物による止め刺し
止め刺した獣は、市町の指導に従い、適切に処分します。処分方法は、埋設による処分が一般的です。
また、地域によっては、焼却施設での焼却処理などもあります。
[埋設処分時の注意点]
- 周辺に人家や農地がない場所を選定する
- 水源地などに考慮して埋設場所を選定する
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風雨や獣の掘り返しにより、埋設した獣が露出しないよう、地中深くに埋設する
Q&A 「くくりわな」
くくりわなを設置してもシカが捕まらないのはなぜですか?
シカが来ていないか、来ていてもくくりわなを避けている可能性があります。シカが来ていない場合は設置場所を変更し、くくりわなを避けている場合は、くくりわなの位置や設置方法を確認しましょう。
シカ以外の動物がかかっていたらどうすればよいですか?
錯誤捕獲の場合は、安全を確保しつつ速やかに放獣してください。
ツキノワグマの場合は、市町の担当窓口へご連絡ください。
※錯誤捕獲が発生しないよう、法令に合致したくくりわなを使用してください。
一番よく捕獲できるくくりわなの種類を教えてください。
くくりわなを設置する場所の地形や地質などの地域性により、その状況は異なります。
くくりわなを設置する場所を事前に調べておき、その地域で実績をお持ちの猟師にアドバイスを受けながら最適なくくりわなを選択しましょう
くくりわなは繰り返し使っても大丈夫ですか?
一度獲物がかかったわなは、部品が壊れている可能性があります。壊れたまま、再度使用すると大変危険なため、必ず点検し、壊れた部品を交換しましょう。特に、ワイヤーは一度獲物がかかると断裂している可能性があるため、交換するようにしましょう。
くくりわなは、自分でつくることもできますか?
くくりわなを構成するワイヤー、ばね、よりもどしなどの部品は、ホームセンターなどで容易に入手ができるので、くくりわなそのものを自作することもできます。ただし、くくりわなを自作する場合は、ワイヤーの太さや、設置の際の輪の径など、法令に合致したものを使用しなければなりません
シカの生態
一日中活動し、開けた 草地 を好む。 「 なわばり 」は持たず
、行動範囲は広い。 イノシシほど決まった移動経路は持たない
前足
細長く平行に伸びる
2本の爪が特徴。
【特徴】
大きさ:体長 90~190cm
体重 25~130kg
食 性:草食性(季節に応じて植物を採食)
生 態:オスとメスで別々の群れをつくる。
交尾期は 9~11 月で、 5~7 月に通常 1 頭を出産する。
雪を避けた小規模な季節移動をする。
木の皮を食べたあと
植物を食べたあと
ぬた場
柵をくぐり抜けたあと
獣の痕跡(フィールドサイン)
シカ
2本の爪が平行に並ぶ。イノシシの ような副蹄はつかない。
俵型の糞がバラバラと広い範囲に落ちる。
イノシシ
2本の爪の後ろに副蹄がしっかり残るのが特徴。
粒状の糞がつながり、棒状になっている。
カモシカ
2本の爪が平行に並ぶ。シカの爪によく似ている。
シカの糞に似ているが、1 か所に 100粒以上がまとまっている。
◆注意事項とマナー
◎獣の捕獲には許可が必要です。
くくりわなの使用には、わな猟免許が必要です。
◎期間の尊守
有害鳥獣捕獲は、許可を受けた期間に実施してください。
※有害鳥獣捕獲が可能な期間は市町により異なります。
◎くくりわなのメンテナンス
破損したワイヤーなどは、深刻な事故の原因になります。くくりわなの部品は消耗品と考え、こまめに交換しましょう。
◎捕獲した獣への迅速な対応
捕獲した獣の放置は、事故の発生につながります。くくりわなの見回りを頻繁に実施し、迅速に対応しましょう。
法令で定められたくくりわなの使用規則を無視したり、不適切な設置方法でくくりわなを使用した場合は、予期しない事故が発生します。
事故が発生しないよう、法令を順守し、十分な安全対策を実施しましょう。
[◆事故の例1]
「小学生が誤ってくくりわなにかかり怪我」標識が設置されておらず、ばねの力も強かったため、簡単に外せずに怪我を負った。
[◆事故の例2]
「わなの設置中にストッパーが外れ、顔面を負傷」くくりわなの設置作業中に、ばねに付けていたストッパーが外れ、顔面を負傷した。